胸がスカッ!

数多い高校野球のなかで印象に残る試合を紹介しよう。
今でも、あの興奮が思い出されます。
暑い陽射しのなかでの熱戦であった。
両者ともユニフォームが泥だらけだ。
まさに死闘だ。
その死闘の代表格が上の写真である。
ド迫力なシーンである。
拓大紅陵の選手がホームに突っ込んで、
撃墜されたシーンである。
いわゆる「憤死(ふんし)」というものだ。
暴走も暴走。
これ以上の暴走があるか。
無謀なホームへの「お手本」だ。
しかし、
その爆走を身体(からだ)をはってとめた、
千葉日大一のキャッチャーも大したものだ。
しかも抗議一つせずに。
では、そのプレイを再現しよう。
回は8回の裏。
4対4の同点だ。
緊迫した試合だ。
うだるような暑さが、
この息苦しさに拍車をかけていた。
打者は9番バッターの田中くん。
(と、あえて名前を出そう)
1年生だ。
ということは、
ほんの半年前までは中学生だったのだ。
その田中くんが打ったボールは、
右中間の深いところに。
彼は一生懸命走った。
自分の足で「逆転する」という気持ちが、
その走りから伺えた。
でも右中間の深いところといっても、
三塁打がいいところだ。
逆転は、次の打者にまかせればいい。
と、誰もがそう思った。
それが野球のセオリーだ。
それが野球の常識だ。
ところがどうしたことか。
田中くんは三塁を回るではないか。
三塁コーチャーの両手は広がっていた。
「止まれ」の合図だ。
それを無視して、
三塁を思いっきり蹴ったではないか。
二塁から三塁へ走るときに、
止まる気配はなかった。
彼は初めからホームを狙っていたのだ。
止まるどころか、ますます加速していった。
その加速は最後のホームまで続いた。
その加速の結果が冒頭の写真である。
爆死である。
これを暴走といわずになんと呼ぼう。
見事な爆死である。
その、とんでもないプレーを、
もう一度振り返ろう。





最後の写真を見てくれ。
してやったり。
少しも悪びれた表情がない。
大したものだ。
いやー、これはスゴイ。
彼の一つのプレーが、
野球のセオリーを破った。
常識というものを打ち砕いた。
思わず私は、
写真を撮りながら「ニヤリ」とした。
ファインダー越しに「ニヤリ」としたのは、
後にも先にもこれが初めてである。


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